2026/10/06 10:00

八百万の神々が出雲に集まり人間の縁や運命、来年の収穫について話し合う、
神議(かむはかり)を行うために地方の神様が留守になることから神無月(かんなづき)で、
反対に集まる出雲地方では神在月(かみありづき)で旧曆に沿ったこととはいえ、
今では和風月名として10月の名前に使われることの多い神無月の神がいない月の
昨今の有力な異説では、神無月の「無」は「なし」ではなく、
「~の」という格助詞を意味している神の月であるという説や、
個人的には好みの異説、雷が鳴らなくなる季節であることから雷無月(かみなしづき)、
新米を使って新酒を醸す(かもす)月であることから醸成月(かみなしづき)など、
いくつかの諸説があるけれど、いずれにしても神々の宿る自然の恵みや神を感じる季節になった。
巷では八百万の神々が留守ではなく、どこにもいなくなってしまったかのように、
救いのない災害、終わることのない豪雨や地震、国内外問わず都市部の洪水など、
神頼みすら出来ないような季候が終わりを迎えて、早く雷の鳴らない季節になって、
穏やかな日々を送ることが出来るようになって欲しいと思うし、
自然の恵みを十二分に感じる新米をいただいたり、今秋の酒米で酒を醸し、
軒先に杉玉が見られるような豊かな季節になることを心から願うばかりのこの頃。
自身の人生57回目の一年が終わり、また新しい一年を迎える節目を迎える。
月齢に暮らして、生まれ月を個人的な一年のはじまりの節目として考えているから
色々といつも以上に振り返ることの多い一週間を、ひとまずは無事に迎えている。
かといって振り返ってみたところで、いつもに増してあっという間過ぎて、
何があった、どうだったなどと思い出せることは多くないけれど、
人の死と死に様の考えをより深めることの多かった夏の終わりを越えて今になっている。
つい先日には救急、集中医療における延命措置、延命治療について、
患者の意思尊意を原則として終了や差し控える手順を示したガイドラインが公表されて、
この夏までの経験に照らし合わせて考え直すきっかけを与えられて、
自分については、延命対処などして欲しくないから今のうちに意思表示の何か、
公的なモノを調べて残しておかなければいけないと思いを改めたりしていて、
この先が見えてきた人生のことも含めて考えることは沸いて出てくる時期を迎えている。
ひとまずは無事に、大してポンコツになっている箇所が見つからないままに、
もう一年のはじまりも無事なままに迎えられそうな気配を感じている。
そんななかで、忘れていたわけではなく、もうこの日が来たかという報道を聴いた。
自身の東京生活のはじまりだった渋谷の西武百貨店が58年の歴史を9月末日に幕を下ろした。
思い出深いシブセイが同い年だったことに驚かされなから感慨深く、ラジオに耳を傾けた。
建物自体の老朽化や地主との関係、経営側の戦略的なことも含めての閉店だと思うけれど、
とてもよく知った建物だったから、耐用年数の経過や衰えは否めないだろうと思いながら、
同い年の自分も歳を取ったことを改めて思い知らされた気がしたものの、
今のところ前述のようにまだまだ、もう少しは使える身体は残っていると思っている。
ただ、あちこちガタがきていることはわかっているから、放っておいたら老化する、
それだけの年数を使ってきたのだから少しでも退化しないように、
これまでと同じように、いつも変わらないと感じられるような微増の進化を心掛けて、
人前に出るこの仕事をする限りは自分を律していくことを続けながら、
還暦まての2年間をまずは目標に定めていきたいと誓うおわりとはじまりの節目を迎えた。
東京では観測史上最長の連続降水日数を記録したと伝えていて、
醸成月に醸すための酒米への影響はもちろんのこと、農作物全般の影響は甚大だろうし、
到底雷無月とは言えないような、マリアナ諸島付近で台風27号が発生しているし、
9月全体の日照時間が45時間ほどらしく、人間は心身のバランスが崩れて、
良からぬ事件事故が起きるかもしれないし、10月1日からの物価の値上げも加わって、
おちおち寝てもいられないような状況になっているし、何かとざわつくことが多い。
このままでは豊かな秋を迎えられそうな気配はないし錦秋の期待も出来ないままに
冬になっていくのかもしれないけれど、何事も無事に出来るだけ平穏に、
少しでも心豊かな時間があるように祈りながら、いつも通りにこの酒場で人を待ち、
預かった時間がやさしい時間になるように準備を怠らないように気をつけている。
今でもこうして人と酒に向き合っていられるこの仕事を57年のうちの27年間携わってきた。
見習いから始めた30歳、すぐに鎌倉で店を任された後に36歳で銀座に来て、
サロン的なバーを運営、42歳で小さな酒場を銀座の端っこで始めた10年後には
ビルと共になくなり、銀座の庭と名付けられた場所で日本を代表する世界的企業、
その創業者の名を冠した期間限定の酒場を任されたコロナ禍の52歳を過ぎて、
ひと回り下の世代の新しい酒場の開業の手伝いをさせてもらった後の55歳、
今任されている酒場が同じ時期に3年目を迎えようとしていて、自分は58歳を迎える。
こんなにありがたい人の縁に恵まれて救われた人間はなかなかいないと我ながら思う。
とても感謝しているし、それぞれの街で関われたみなさまとのご縁は今でも続いているし、
この酒場にわざわざ訪ねて来てくれる27年分のお客様もたくさんいる。
鎌倉で出会った20代半ばだった若者が50歳を過ぎた今でも顔を出してくれていたり、
サロン的なバーのお客様は様々なカタチで関わりを保ってくれているし、
銀座の端っこの酒場の時に社会人になったばかりの建築士は今では3歳半になる子どもの父親で、
出張の度に必ず顔を出してくれて、カウンター越しに語り合う時間を持てているし、
金融界に身を置いた彼は30代半ばを迎えて、ステップアップの挑戦を報告に来てくれたりと、
語り尽くせないほどに27年分の繋がりを持てているし、もちろん亡くなった方々もいる。
悲しく切ないことだけれど、そこにも年月の積み重ねや諸行無常も感じている
今は鬼籍に入った人生の先輩方からの学びは受け継いで自分が次世代に伝える役目、
そうだということは使命としてわかっているし、そうしてきたつもりでいる。
だからなおさら、足りないことばかりなこと、上手に出来ていないことは理解しながら、
これからも自身を精進していかなければいけないことを十分わかっている。
そうしながらも、この酒場で自分の役目を果たしていかなければいけないし、終われない。
けれど、この酒場の3年のなかでも遠く異国の地から再度訪ねてくれる方々が多い数週間。
二年ぶりのドイツ人、一年ぶりのフランス人、半年ぶりのドイツ人などなど、
それぞれがまた日本に来たからと顔を出してくれて、その時の写真を見せながら
うれしそうに酒とニッポンの酒場を楽しむ様子がうれしく、ありがたいし、
こんなに数多ある銀座の酒場のなかでも覚えてくれていて、
しかもまた、来てくれたことが本当にありがたいことだと思っている。
他にも滞在中に何度も来てくれるアメリカ人がいたりと、なんだかそういう時期?
そんな風にも思うけれど、言葉がきちんと通じていなくても意志疎通が出来ていて、
遠い昔にこの仕事と決心した時の、言葉が通じていなくても世界共通のこの仕事であれば、
世界のどこでも、日本と限定せずに、酒場がある地域であれば食っていけるはず、
そう信じて身を投じたその答え合わせをここ銀座で還暦を前に体感している。
そんなことも感じられた夏のおわりから今、自分が生まれたはじまりの月に、
自分の名前がこの季節を表していることをうれしく感じられる季節を迎えた。
とにかくこの一年もまた無事に、漢詩の好きな一文「無事是名馬」を座右の銘としてきた、
名馬ではないけれど、この丈夫な身体がどこまでもつかはわからないけれど、
とにかく無事に長い距離を引き続き走り続けていけたら良いと思っている。
たくさんの縁に恵まれながら、自然の恵みも十分に感じながら、
神様が集まって来年の運命を決める会議の行われるこの月にまた、
新しい一年を迎えることが出来そうな自分が今ここにいることを実感している。
令和八年 おわりとはじまりの季節に
栗岩稔
