2025/09/09 10:00

栗岩稔的酒場の流儀、流儀なのかどうか定かではないものの、久しぶりに徒然と。
30年来の友人と銀座のど真ん中のビアホールで「ビール」を心行くまで楽しんだ。
ここ数年、上京する度に都合をつけて会って話して昼の小一時間を忌憚なく、
前回もそうだったけれど、とても楽しい時間を「昼飲み」しながら楽しんでいる。
残暑なんて言葉はなくなってしまったような暑い陽射しのなか開店直後のビアホールに向かった。
限りある日数の予定のなかで時間を割いてくれているのだから、行列して入店なんて、
余計な時間を費やさないように予約が出来るほうの店を予約して一番に訪れた店では、
店内奥、ホールという言葉が似合いの店内を一望出来る席に案内された席に座るとすぐに、
まずはビールを頼もうとすると、その勢いをたしなめるようにタブレットでの注文を求められ、
アナログおじさん二人は何だかね、と話しながらまずは、の生ビールを検索。
お互い若い頃には迷わず大ジョッキだったところを中ジョッキを迷わず選んですぐ送信。
50歳を越えた二人には酒のつまみも選択肢を狭めた、ザワークラフトと、
身体に良いらしいよ、なんて言いながらのブロッコリーのマリネ、
絶対に忘れちゃいけない名物の唐揚げは、これまたひとり2個ではなく1個ずつ。
タブレットを戻すと同時に届く中ジョッキ2個が旨そうな泡をたたえて到着。
お決まりのように自然にもれる、ぷはーっ、という音とともにお互いの近況の語らいが始まる。
懐かしくも聞き慣れた広島弁で語る彼の話しを楽しく聞きながら、
変わらない声量がホールに響いているかな、大丈夫かな、と見渡すと、
日曜昼の旨いビールを楽しむであろう人々が続々と席を埋めはじめている。
上品な老夫婦、高齢男性二人連れ、同年代とおぼしき夫婦と背後には小さな子供を連れた若い夫婦。
視界に入るすぐ隣にはブランドものの買い物袋をたくさん抱えたカップルが座る。
そりゃ、みんなビールを飲みたいよね、子供連れのお父さんだって、買い物帰りだって、
なんて、うれしくなりながら、予約しておいて良かったと実感するほどに客席が埋まり、
手元のビールが残り少なくなった頃に届く揚げたての唐揚げ2個を見ながらまた、
少し手慣れたタブレットを操作して追加の生ビール中ジョッキを2杯注文して、
ザワークラフトとブロッコリーで残りのビールを飲み干した後に頬張る熱々の唐揚げ。
変わらない旨さに舌鼓を打っている頃に届く冷えた生ビールにまたしても洩れる、ぷはーっ。
唐揚げのあまりの旨さにリピート、で話しが決まりながら、
そうは言っても野菜もね、とグリーンサラダをすりおろし野菜のドレッシングで注文。
好物はリピートするという、昔から変わらない二人に旨いビールと唐揚げ2個にグリーンサラダ。
そういえばあの頃、仕事帰りによく訪れた居酒屋では必ず胡椒たっぷりもやし炒め、
あの店の名物だと思い込んでいた、特大納豆オムレツだったよなー、なんて思い出し、
同じように日曜の昼を楽しんでいるんだろうなー、と周りを見回すと、どうも気になる隣の席。
テーブルの上にはビールジョッキがひとつもなく、背後の家族のテーブルの上にもない。
せめて小グラスぐらいはあるでしょ、と思い直しながら、会話に戻ると彼が切り出した。
「みのるさん、やめなはれ、言いたいことわかりますけど、もうあの頃とは違って、
そんなに尖っていならあかんですわ、もうわしらも良い歳なんじゃけんね。」
「まあ、そりゃそうだけどさ、ここって、ファミレスじゃなくて、ビアホールだよなーって‥。」
「だからー、もうやめときましょ、ビール飲みましょうや、みのるさんおかわりは?」
と、彼は話題を切り替えて、気勢をそらすように、ことを納めるように手洗いに向かった。
どうも気になった隣のカップル、男性は名物ナポリタン、ではない、
たらこスパらしきものと女性にはオムハヤシと水滴が垂れた二つの水のグラス。
背後の子連れの家族のテーブルの上にも同じような空の皿が並び、子供は立ち上がり遊ぶ。
左前方の若い男性二人はスマホを見ながらのオムライスを会話なく完食した様子。
まあ、確かに入口のショーケースにはビア「レストラン」の表記とランチ推しのメニューがあったし、
食品サンプルもオムハヤシやナポリタンだったけれど、ショーケースの一番良い場所、
真ん中の棚には生ビールの大中小と名物のブーツグラスが並んでるんだけどなあ、
せめて、何かしらのビールでしょ、それが店に対する敬意のようなものでしょ、
まあ、人それぞれだからね、良いんだけどねー、でも何だかなー、と思いながら、
手洗いから戻った彼の広島弁に気を取り直して残りのビールを美味しく飲み干し、
主食がビールで唐揚げ、ザワークラフト、ブロッコリーにグリーンサラダの昼ごはんを終えた。
何だかな、というテーブルを抜けて会計に向かう途中のホールの真ん中で、
顔を赤くした高齢男性二人が大ジョッキのビール二つに枝豆とザワークラフト、
という気持ちの良いテーブルに何だかなうれしくなり、モヤモヤを拭い去ってくれて、
外はまだ、これからもっと気温が上がっていく気配に包まれた銀座四丁目交差点を、
彼は左折で自分は直進しながら次回を約束して別れ、とても楽しく良い時間を終えた。
歩きながら考えた。
確かに若い頃には彼が言っていたように尖っていたんだろうと思う。
社内では理不尽なことで上司や先輩と議論口論を重ねて煙たがられ、
一歩外に出ると、お店に敬意を持てないような人と同席するとひとこと言いたくなったり、
実際に言った後には口論になって、店の外に出されたり、
時には、嫌がっている女性客にちょっかいを出している男性客とけんかになったり、
まあ、そんなつもりななかったにしても、尖っていたんだろうな、なんて思う。
けれど、この東京という街で必死に生きていたことは間違いなく、
息つく暇もないほどの時間が過ぎていくなかで訪れる坂場の時間や、
居酒屋のカウンターの端っこのひとり飲みが息抜きの時間だったし、
その好きな時間を大切にしていたし、店にも感謝していたからなおのこと、
特に今日訪れたビアホールは移転する前からよく通っていたし、
長年そこにあり続ける歴史と背景に敬意を持ちながら、銀座の真ん中で生ビールという、
自分にとっての特別な時間楽しんでいたあの頃を想いながらの今日、
ビアホールでビール無しのテーブルが少し悲しかったなー、なんて考えていたらまた、
別の旨いビールが飲みたくなって訪れたビアバブのカウンターに取っつき、
変わらないビールを楽しんでいた後ろでは、若い男性がカレーライスと水のコップ、
大事そうに並べたスマホのテーブルにまたしても、何だかなーと2杯目を飲み干し、
滞在時間30分で店を出ると、まだまだ陽が落ちないカンカン照りの街が広がっていた。
帰宅して確認したスマホに届いていた彼からのお礼のメッセージに、
やっぱり今日はとても良い一日だったなー、そう思いながら、
次はあの串焼き屋だなー、と若い頃に暮らしたあの街を思い起こしながら日曜日を終えた。
またひとつ楽しみが増えたことがとてもうれしくなった。
令和七年 残暑どころではない陽射しのなかで
栗岩稔
