2024/12/10 10:00


大雪を迎えてようやく、寒さが身に染みるようになり、年末を感じるようになった。

気温が下がってきた頃にあわせて、ようやく街が華やいできた。
さまざまな、もみの木、リース、サンタクロース、きらびやかな照明。
キラキラしていて、ニコニコしていて、ざわざわしている。

若い頃、特にバブル経済期のアパレルブランド勤務の頃は苦手だった。
冬のボーナス商戦やらプレゼント需要やらでクリスマスをピークに忙し過ぎた。
年末感がまるでゼロのあの感覚、元旦しかない休日がいつもと変わらない、
週に一度の貴重な休日でしかなかったから、どこか舌打ちする感じでもあった。
西洋の宗教的な文化で行事でしょ、みたいな理由をつけていた。
けれど、そんな考えを持ちながらも、ライトアップされた街並みを見て、
大都会ならではの華やかなシーズンイベントをひとり楽しんでもいた。
田舎の町にいたら絶対に感じることの出来ない華やかさを感じていた。
けれど、ちょっぴり苦手な季節の風物詩でもあった。

歳を重ねるほどに少しずつ、ひとつひとつを受け入れられるようにもなってきた。
変わらず忙しない日々が続いていたことは間違いなく、
時には年を越せるかどうかわからないほどの苦しい状況があったり、
義務的なクリスマスを過ごす時もあったり、わざと仕事を入れて外したり、
クリスマスだからという理由がケンカの原因で仲違いしたり、
変わらず気忙しく、多用で多感な時期であることに変わりなく過ごしてきたけれど、
少しずつ素直に受け入れられるようになってきたと思う。
斜めに構えて、斜めから見ていた若い頃とは違って、真っ直ぐに正面から。

映画にしても、勝手に一番のクリスマス映画だと思っていた「ゴッドファーザー」
自身の酒場では、12月24日にパート1からパート3までを流しっぱなしにしていた。
ファミリーや血のつながり、それを守るべく生きる人々を描く、
アメリカの典型的なクリスマスなんだろうとも思っていたし、
映画自体が好きな作品の5本の指に入るほどだったからそうしていた。
けれど今この歳になって、クリスマスに観るかと言われたら、観ることはなく、
もっと違った、わかりやすく明るい映画を観るのだろうとも思う。
これもまた歳を重ねてきて、様々な物事を受け入れられる、
そんなことも結果のひとつなんだろうとも思っている。

もっと和やかに穏やかなクリスマスシーズンでいたい、
あと4回のクリスマスシーズンだから、とも思っている。
まあ、いずれにしても、「ゴッドファーザー」は観すぎて、
シーンやセリフまで鮮明に記憶しているから、改めて観る必要もないけれど…。
ゴッドファーザーに限らず、色々な映画のなかのクリスマスを観てきた。
実際に現地のホリデーシーズンはどうなんだろう、とも思っていた。
だから、上京以来はじめて余裕のある(金銭的にも時間的にも)休日、
結果的に後にも先にもあの時しかなかった長期の休日に、
11月にバリ、12月にニューヨークに一週間ずつ旅をした。
ホリデーシーズンを体感したかったからあえてこの時期に行った。
行ってみてやはり、絵に描いたようなホリデーシーズンだった。
映画のなかに観たモノ、ロックフェラー・センターのクリスマスツリー、とスケートリンク、
色々な「クリスマス」を見て感じて過ごすことが出来た。
街中の色々なところにあるクリスマス、行き交う人々、とにかく華やいでいた。
こちらはひとり旅だから傍観者であったけれど、人々は皆、寄り添っていた。
あの頃に今のようにスマホを持っていたら、たくさんの写真が残っていると思う。
それほどに華やぎ、にこやかで楽しげな街であった。
家族、友人、恋人を感じられる街にひとり楽しくいることが出来た。
聞いたところによると、この時期のニューヨークでは自殺者が増えるという。
それほどに、ひとりであるという現実を強く実感してしまうのかもしれない。
それもそうだろうなと感じざるを得ない街の景色だった。

昨今の東京でも、人身事故で電車の遅延が多発したりしている。
大都会にひとり暮らし、生きるていくということに様々な事情があると感じる。
それを乗り越えて皆が生きているのだと実感している。
家族を持ち生きられている今改めて、そのありがたさも感じている。
だから今までもこの先も特に、酒場のような場と時間が必要なんだろうと思う。
その時間を預かる仕事をさせてもらっていることに感謝しながら向き合っている。
かつての酒場ではクリスマス感を一切出さず排除までして、
季節の移ろいだけを大切にして演出して運営してきたけれど、
今この酒場ではクリスマスを楽しみ。それが大切なことだと思えるようになった。
今更ながら、だいぶ遅いけれど、器が大きくなったのかなとも思っている。

街中のサンタクロースやデコレーションやイルミネーションとにこやかな人々、
そんな街が素敵で良いと思えるし、酒場にあるツリーも美しい。
酒場の大きな窓口からはリースに明かりが点り、人々が行き交う姿が見える。
これもまた良いし、世界中の人々がひとつの区切りを迎えるこの時期、
気忙しく多用で大変な時期ではあるけれど、少しでもやさしい時間であればうれしい。
街中の柊が25日の深夜を境に一気に松に変わることが面白く楽しく、
そんな日本にいられることに感謝して、今こうして生きている、それがうれしい。

最近はあまり見かけなくなった25日夜から始まるケーキの大安売り、
あれはあれで何だか面白かったな、正月飾りと山盛りクリスマスケーキ…。

令和六年 文字通りの大雪の頃に
栗岩稔