2024/10/22 10:00

運転免許証の更新をした。
数週間前に届いた更新のお知らせには毎回、流れた年月を感じさせられる。
ただ、あの長時間かかかる更新手続きにまた行くのかと思うとうんざりする。
過去に、渋滞した流れ作業で2時間以上かかったことを思い返すと、
その時間をどこで割くのかがなかなか見えず、そもそもが面倒だった。
けれど、国が認める資格だし、身分証としても必要なものだから、
年に数回しか運転しないけれど、更新は必要だからと思い、ハガキを開いた。
そうは言っても誕生日前にはと、変な意味のない拘りもあって、
あーまた、あれが…、みたいな感覚を持ちながら中身を確認した。
そこには変わらない文面に加えて、QRコードと予約システムの案内があった。
予約?、ということは時間短縮?と少しだけ期待しながら早速予約をした。
必要なものは、ハガキと手数料と予約した画面のQRコードと予約番号。
なんだか今風になったものだと思いつつ更新される現行の免許証も添えた。
何度か訪れている会場自体は全く変わりなく、そこにあって、係員が立っている。
けれど、予約制になって予約以外の人は少ないからか閑散としていた。
どこにも渋滞している流れ作業の長蛇の列がなく、あるのは、
変わらない大きな番号表示と、表情を変えることなく、淡々と案内をする係員。
変わったのは、ピカピカのQRコード読み取りも付いた予約受付機。
早速、予約受付システムなるものを始めたものの、分かりにくい画面表示に、
結局は予約番号登録で受付を終えて、①からはじまる順路に押し出された。
まずは手数料徴収からはじまる一連の作業は滞ることなく機械的で、
まるでベルトコンベアで生産される何かのように流され、止まり、また流された。
機械的な挨拶もほどほどに、一番懸念していた視力検査の小屋に流れ着いた。
係員のおじさん(と言っても自分とたいして変わらない)の元気な挨拶と、
明瞭でわかりやすい説明で、老眼と視力低下からくる不安を払拭してくれた。
この手続きを終えて一番厄介な講習会も、ほぼ運転をしていないから30分で終え、
新しい免許証受け取りのための上階に向かうエスカレーターの列に紛れた。
そこでは、すでに自分を表す番号が表示され、受け取りの列にまた紛れ、
トランプのように配る係員から5年先の自分に会える免許証を受け取った。
まさに機械的な流れ作業のおかげで1時間も掛からずに会場を後にした。
早く終わったのはうれしいけれど、国が交付する自身を表す大事な証明が、
その価値観というかなんというか、何だかな、と思いながら、
まあ、たくさんの人の対応をするのだから、効率的にするのは当たり前だし、
大変な作業だけど改善されて時間短縮されて、というのは理解しているけれど、
ただ、不安を抱えてくる人や、高齢者だったり、異国の人だったり、
そんな人たちにはどう感じるんだろうな、などとまた面倒臭いおじさんになり、
まだ朝の空気が残る大きな大きな通りを足早にあるいて人の流れに乗った。
今、手元には新しい免許証と無効になって穴が開けられた免許証がある。
そこには、5年前の自分と今の自分がいて、客観的に眺められる。
この次の更新の5年後に還暦を迎えた自分がどうなっているんだろうか、
そんなことを考え、その頃を想像しなから、ボンヤリと眺めている。
世界中がパンデミックになる前、5年前の2019年。
あの時はまだ誰も予想すら出来なかった世界中が欠落したような3年間のはじまり。
覚えているのは対岸の火事のような感覚で木挽町路地裏の小さな酒場を営んでいた。
まだ店を閉めることになるとは想像もしていなかったものの、
漠然とした不安たけがあって、何か激動の風が吹くような感覚だけがあった。
けれど、店先に置いた白いイスに座り、書物を読み漁り、何かを掴もうとしていた。
そんな風には思っていたけれど、まだどこか呑気に構えていたかもしれない。
ただ、感じていた「風」だけはどこか忘れずにいた、そんな風に思う。
あの時はまだ想像すらしていなかった今、同じ路地裏で酒場を預かっている。
まさか、こうなるとは思いもしなかった現実が今目の前にある、そのことが面白い。
肉体的には視力検査上では問題なかった眼の老化がすすみ、眼の疲れもある。
だから、本を読む回数が減り、読むスピードが下がり、読むことすら億劫にもなる。
けれど今、この自分を楽しんでいる。
40歳の時に楽しみにしていた50歳をあっという間に超えた今56歳。
あの時に想像していたよりは少しだけ褒めてみても良いかな、と思う。
5年刻みの自分の未来予想図も次は還暦60歳。
あくまでも自己判断なので、周りの方々はとう思っているのかはわからないけれど、
何となく、こんな自分で良いのかな、なんと思えることが少しでもあるから、
それで良い。そう思えるようになってきたんだな、と思えるし、
まあ、こんなもんかな、そんな風に考えていられる感覚が楽しい。
もちろん、この先の世の中のことや自分自身の心配事はある。
あるけれど、次は還暦60歳、若い頃にはあり得なかった自分に会える。
到底考えが及ばなかった自分がもうすぐそこに見えてきた。
まあ、なるようにしかならないけれど、時は流れ、流されるので…。
ところで、みなさまの5年後はどうされていますか?
その頃にまた、お目にかかれたら幸いです。
令和六年 穴の開いた免許証に5年前の自分を眺めながら
栗岩稔