2024/02/13 10:00


さいとう君のことを思い出す。

RY COODER/BOOMER’S STORY~流れ者の物語~
このCDを海辺の町に暮らしていた時にもらった。
ケースにヒビが入り盤面に傷がつき、ボロボロになっても、
買い直すことなく今でも手元に置いている。

さいとう君は、山育ちの自分にとってイメージ通りの
「海辺の町に暮らす青年」だった。
白いTシャツにLevi’s501、ジャックパーセルの青ひげ、
オレンジ色のベスパに乗り、海風が流れ込む開放的な住まい、
玄関先には10フィートのサーフボードが数枚。

さいとう君との出会いは駅前の老舗コーヒー屋。
すでにそこに働く彼から新人の教えを受けた。
当時は人手不足過ぎて、タイムカードの両面がすべて埋まるほど、
今では絶対に許されないが、汗水流して倒れるほどに働いた。
開店は朝7時、仕込みがあるため朝5時半出勤、
開店と同時にいつもの顔で満席になる満席になるコーヒー屋。
同じ時間に同じ味を楽しむ長年の客に対して、
お互いのリズムをあわせて流れるように働いた。
時間が出来ると地元民が集まる店で飲み食いし、
将来のこと、音楽のこと、旅のこと、海のことを語り合った。
たくさんのことを学んだ。
疎外感を覚えていた閉鎖的で排他的な海辺の町ではじめて、
同世代の友人が出来た。

そんな彼からもらったCDジャケットの笑顔で手を振る写真に、
あの時の姿が重なっている。
今では家庭を持ちオヤジになっていると聞いたものの、
あれ以来会っていない。連絡先すら知らない。
今の時代、たどれば辿り着くだろうに、それすらしていない。

最近、ふと思い出し会いたいと思うことが増えた。

バブル経済真っ只中の渋谷で、当時トップのブランドで、
ライバル会社ながら、協力して共に実績を積み上げた、
同い年で共に上京組のいのうえ君。
アメリカのブランドを預り育てるために、日夜死ぬほど働き、
死ぬほどに酒を酌み交わした、デニムオタクのかいづか君。
などなど。

歳を取ったからかなと思うけれど、
残念ながら、筆不精で出不精なので会うことはない。
彼らが暮らす町に行けば会うことは出来るのに行かない。
忙しいふりをして行かない。
これこそ、正に読んで字のごとく「心を亡くした」と思う。

でも、最近は特に思い出す。
だから、還暦までには会いに行こうと思う。
その猶予期間がそもそもダメなんだろうな、自分は。

数少ない友人のみなさまへ。
不義理ばかりでごめんなさい。
死ぬまでには会いに行きます。
だから、元気でいてくれたら幸いです。

令和六年 流れ流れて辿り着いた今に
栗岩稔
追伸、お元気ですか?