2023/12/12 10:00




街の音。

小さな葉っぱが、カサカサと聴こえてくると、
チェット・ベイカーの枯葉。
木枯らし一号が吹いて大きな葉っぱがガサガサいうと、
ビル・エヴァンスの枯葉。
音もなくヒラヒラと落ちて、あたりを黄色く染めると、
マイルス・デイヴィスの枯葉。
そんな風に街の音を感じながら酒場の音楽をイメージして、
その日の一曲目を決める。

なんとなくの活気を感じると、ソウル、R&Bでグルーブ感を、とか、
静かなる高揚感を覚えると、グレン・グールドで静謐感を、とか、
サロンのように人が集う週末には、
70年前の空気感までもが収録された、マット・デニスを、
あ、やっぱり人の声がしっかり収録されている同年の姉妹盤を、とか、
いやいや、土曜の夜はトム・ウエイツでしょ、とか、
時節柄の直接的なクリスマスソングはかけません、けれど、
ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」は
私にとって、クリスマスソングではありませんから、とかとか。
無論、ジャズおじさんのジャズについては語るまでもなく、
お察しいただくことにして…。
これが私が思うところの酒場の音楽のほんの一部。

酒場の音。
とてもとても大切なことだと思う。
扉の開く音、閉まる音、足音、水音、氷の音。
グラスの音に仕事の音。
無音、静音、雑音、騒音、そして清音。
その空間を構成する様々な音。
とりわけ人の声はとても重要な要素だと思う。
人数、性別、年齢、酒量、酔狂。
一方的に話す人、一方的に聞く人、話し合う人、議論する人。
人の話しを聞かずにひとりで喋る人、などなど。
無口、無言、雑言、他言、多言、人の声には様々ある。
その声をコントロール出来るか否かが空間を決めると思う。
蜂の羽音のような一定のリズムか、バラバラに飛び交うか、
波長が合うか合わないか、耳障りが良いか悪いか、などなど。
もちろん、その内容はとてもとても、大切です。

仕事の音と音楽と外界の音、そこに入り交じる人の声。
酒場の音は数あれど、支配するのは人の声。
飛び交う音と人、それらが一体化した酒場は心地好い。
それが、私が思うところの酒場の音。

先日学んだ。
その空間を構成する心地好い音を「white noise」というのだと。
日本語でいうところの「ざわめき」のようなものかと思っている。
どこか一定のリズムと一体感で支配された音の空間。
それが響鳴して共振して出来た「white noise」

そうは言っても、上手くいかないことは多々ありまして…。
選曲ミスやあえての外し、会話の受け流しや聞き流し、
その場を取りまとめるためのごまかしの数々。
それらについては「white lie」としてご容赦を。

もちろん、白と黒、白か黒、は大切です。
でもでも、グレイゾーンも必要な時もありますよね…。
ありませんか、灰色の日…。

令和五年 きらびやかな喧騒を尻目に
栗岩稔