2023/11/14 10:00


折れたタバコの吸い殻であなたの嘘がわかるのよ。

とはじまる歌謡曲に大人の世界というものをボンヤリと感じながら、
身体のどこかの芯がムズムズしていたことを思い出す。
1974年発表、山口洋子さん作詞、平尾昌晃さん作曲、
中条きよしさんが唄った、その名も「うそ」
黄金トリオが世に放った昭和の名曲だと、勝手に決めている。

学校や家では理由も言わずに嘘はいけないことだと、
耳にタコが出来るほどに聞かされながらも、 
大人たちの世界には哀しい、冷たい、やさしい、切ない、
などのいろいろな嘘があるものなんだなと思っていたし、
大人というものは、そんなものなんだなとも思っていた。
到底子供には理解出来るはずもない大人たちの世界に何となく憧れ、
繰り広げられる男と女という未知の世界にも興味を持った。

大人になってからの気付きは、
歌詞の中に出てくる男のだらしなさと女の弱さ、
その弱い者同士が肩を寄せあって生きていること。
ただ、他の女が残した吸い殻を片付けない男はどうかと…。
詰めが甘い、というか、何というか…。
学ぶべきことがあるかどうかは別にして、
テレビの前で大人の世界とそこにある嘘のあれこれを覚えたあの頃、
今となっては遠い昔の自分の淡い歴史の一頁になっている。

人間の歴史には嘘が付き物のように、
古くは古事記、イソップ童話などにも記され、
嘘を戒める、狼少年のような逸話が数多くある。
方や、嘘も方便と言われるようなことわざがあったり、
人を救うため、導くためには当面の間、
嘘をつくことを良しとする大乗仏教の教えがあったり、
英語では人を喜ばせるための嘘を「white lie」と言ったり、
嘘のカタチというものは様々であることに気付かされる。

世間では、
嘘偽りを並べ立て、顔の見えないことを逆手に取って、
電話一本で高齢者を騙し現金を搾取する奴らがいたり、
嘘か信かわからない発言を繰り返す国の指導者がいたり、
嘘や偽の情報で民衆を扇動する活動家がいたりと、
何だか人間は嘘と一対なのかな、とも思ったりもする。
書店に並ぶ嘘だらけの歴史だと解説する書籍を目にすると、
そりゃ、歴史は勝者や強者の言葉で、それを記しているのは、
それに近しい著述家や歴史家であるだろうから、
世情を鑑みて仕える人に配慮することもあるだろうし
一時流行った言葉で言う「忖度」もするでしょ、とも思う。

だから、世界のありとあらゆる物事に対して自分の考えを持ち、
違和感を覚えることに注意して見極めるていくことが、
この息苦しい時代を生き抜くうえで必要なことなのだろうと思う。
虚構の世界に迷い込まないように、真実を見る目を持っていたい。
目に見えない闇の世界で悪事を始末するような、
昔大好きだった「必殺仕事人」がいるわけでもなく、
正義のヒーローなんかはどこにも存在するはずもなく…。
自身で強く意思を持ち、深く考えながら、冷静に見極めながら。

そうそう、若気の至りな話。
当時仲良くしていた女性にある日、突然言われた。
「あなたさぁ、あごのラインが中条きよしに似ているわね」
なぜ、今さら中条きよしって、しかもあごのラインって…。
その辺りを聞き確かめることもなく、問いただすこともせず、
お互いに、哀しいか、優しいか、冷たいか、切ないか、
どれかの嘘もわからずに会うこともなくなったあの頃。

ま、そんな遠い目をして過去を振り返る暇など一切なく、
今、目の前にある物事を見極めながら、
残り15回の年の瀬の支度に向かう今日この頃です、はい。
あ、でも久しぶりに観たいかも、必殺仕事人…。
藤田まこと、三田村邦彦、山田五十鈴、鮎川いずみ、菅井きん、
そして、中条きよし。
あ、このシリーズは「新・必殺仕事人」だ。
よく観てたなぁ、子供の頃…。

令和五年 急な寒さが身体に堪えるお年頃に
栗岩稔