2023/09/12 10:00

なんとも美しい暦、白露を迎えた。

夜の間に冷えた大気が朝になって、

白い粒のような露が草木に宿り光る頃。

日中も暑さが和らぎ秋の気配を感じる。


そんな美しく一日が過ぎる昼日中に酷い暑さが残る大手町へ行った。

上京して35年経った今でも緊張して、慣れない町、

耳慣れていても身体がついていかない町へ行った。

目的とするビル直結の出口を目指して東京メトロ大手町駅を利用した。

町と同じく慣れていない駅だから手間取った。

一駅は歩いたんじゃないかと思うほどに彷徨った。

地下通路を昼過ぎの周辺の会社員が物凄い速度で歩く中を、

高速道路で低速走行して渋滞を招いているかのように、

足手まといになっているかのように歩いて、辿り着いて、疲れた。

外気に触れたくて地上に這い上がった。


町というか、縦横に走る道路、限りなく上に伸びる建造物。

絵に描いたような、THE 東京という場所に立った。

駅伝ファンとしては毎年恒例のはじまりとおわりの地点として、

それぞれの建物に収まっている企業の名前も知っているものの、

知らない場所、知っている場所なのに、わからなかった。

ビルが高すぎて高すぎて、人が多すぎて多すぎて、目眩がした。


最近はあまり耳にしなくなった「お上りさん」を思い知った。

観光客はもちろん、他から訪れる人にとっては、

文字通りの巨大な壁を体感した。

地下でつながっているからわかるでしょ、的な冷たさ。

今の世の中は手中の電子機器にお尋ねしたら、的な…。

そもそも地下の案内自体解りにくいし、地上に出たら出たで、

巨大な塊に圧倒されるばかりで案内は見つからないし…。

やさしくない、と。

町に対して親切か否かと言っている時点で、

時代錯誤と言わるかもしれないものの…。


大きな大きなビルの端っこに後付けのような何とか小路で

大きなバネルに貼られた町に生きているらしい人の姿が虚しく、

まあ、元来そういう町だったよな、などと思いながら、

唯一わかる皇居の方角を確かめた。


そもそも大手町という土地、

かつては江戸城、今は皇居の大手門の前の一帯。

そこにあった有力大名の江戸屋敷の跡地に明治以降になって、

官公庁や金融関係のオフィスビルが立ち並ぶようになって、

形成されてきた、いわゆる現代日本の中心ともいえるこの町。


たくさん過ぎる人が行き来するこの町、

人が住んでいる気配など微塵も感じないこの町について調べてみた。

2017年7月1日付け(古っ…。)の千代田区の住民登録者数は、

大手町1丁目に1人、2丁目には0人、以上!という予想以上の数字。

方や、2022年度(近っ!)の東京メトロ大手町駅の乗降客数は、

1日平均で277,497人!

なんとなんと、1日280,000人もの人間がこの町のどこかしこにいて、

夜になると離れていって、住んでいるかどうかも定かではない1人が、

どこかにいるかもしれないこの町。

道理でたくさん人はいるけれど気配を感じないと腑に落ちた。


残暑の汗より冷や汗をたくさんかきながら、

THE 東京のスケールの大きさを体感したその日、

高い高いビルの中に東京メトロの改札のようにピッと入って、

熱苦しいかもしれない語りで仕事を終えてピッとビルを出て、

ピッとやって地下の町に吸い込まれて電車で運ばれて、

ピッとやって地上に出てあっという間に違う町に着いた。


次にあの町に行く時はきっと歩く速度が法定速度ぐらいにはなるかな、

などと思いながら、少しだけ人の気配を感じる町で秋の気配を感じた。


一日を終えた深夜にふと、10才にも満たない小僧が

意味もわからず口ずさんでいたあの曲を思い出した。

https://youtu.be/kFquezNCnRk?si=REU6DsODLR0BrsBh

今さらだけど、この歌詞って…。


令和五年 秋の気配を感じる町で人の気配を

栗岩稔