2023/07/25 10:00
トニー・ベネットが96歳で亡くなった。
大往生という言葉が相応しい年齢だと思うものの、
人生100年とか言われる今の時代にはどうかはわからないし、
自分がこれから更に50年近く生きると思うとゾッとする。
というより、想像すら出来ないから考えることをしない。
これまで人生の終わりを定めて、
どう生きるかを考えてきた。
20代の頃は暗中模索、五里霧中で、
トニー・ベネットの名曲、
「霧のサンフランシスコ(邦題)」ならぬ「霧の東京」だった。
今は残り15年が想像出来るから楽しんで東京にいられるのに、
プラス30年はムリだと思う。
(生き長らえていたらゴメンナサイ…。)
とにかく、生き様は死に様だと思って生きてきた。
そんな人生の中で趣味の域を超えて
人生の一部になっている、
映画と本と音楽、特にジャズ。
アメリカ史上最高のボーカリストと称されるトニー・ベネット。
若い頃は何だか暑苦しいな、
という印象で聴いていたものの、
かのフランク・シナトラに
「唯一金を払ってでも聴きたい歌手」
(普段は払わないってこと?)と言わしめたり、
数えきれないほど観た映画
「ゴッド・ファーザー」に登場する歌手、
ジョニー・フォンティーンがトニー・ベネット想定だと、
決めつけて観ていた数十年後に公開されたエピローグ的な作品、
「ゴッド・ファーザーpart3」の中で、
マイケル・コルレオーネの
ローマ・カソリック教会からの叙勲パーティーの席で、
登場したジョニー・フォンティーンにマイケルがひと言、
「キッチンでトニー・ベネットでも聴こうかと思ってね」
と種明かしというか、新たに話題を提供されたりと。
何だかんだと身近な存在だったトニー・ベネット。
彼が1994年に行ったライヴ「MTV UNPLUGGED」
その映像を観た時には完全に参った、というか心酔した。
彼の第二の黄金時代の幕開けのきっかけと言われるライヴ。
その年齢は70歳目前で、つい最近80代後半まで精力的に活動し、
ライヴ内にも観ることが出来る、大好きすぎて挙動不審の、
エルヴィス・コステロとのデュエットのように、
時代を映すミュージシャンと共演を重ねて名盤を残してくれた。
そんな彼、トニー・ベネットが96歳で亡くなった。
悲しさよりも、ありがとうと感謝の気持ちを伝えたい。
昨夜というより朝方まで読み込んでいた本で目覚めの悪い朝に、
晴れやかなやさしい気持ちになれた土曜の朝。
いつも聴いているマニアックなパーソナリティーの音楽番組も、
きっと来週はトニー・ベネット特集だろうな、と思いながら、
もう一度、その本を開いた。
ここのところ自分のために読み直していたアーネスト・ヘミングウェイ。
その最後に読み終えた「移動祝祭日」の新訳版は、
彼が自殺した後に見つかった完成された原稿が出版されて、
未完の原稿とは別にヘミングウェイの遺作とされている。
内容は、まだ無名の時代に滞在していたパリの日々を綴り、
その登場人物も時代を映す、ガートルート・スタイン、セザンヌ、
ピカソ、スコット・フィッツジェラルドなどなど。
好き嫌い関係なく綴られる人間関係が興味深く描かれている。
中でも、困窮する生活を支えた一番目の妻ハドリーへの想いと、
感謝とお詫びの気持ちを込めた最期の手紙のように思える。
若い頃は、文章は基より、その生活スタイルに憧れていたものの、
今は、生と死が漂い、憧れよりもやるせない切なさを感じる。
ま、自分もおじさんになったからな、などと思いながら、
ウディ・アレン監督の映画「ミッドナイト・イン・パリ」を思い出した。
ヘミングウェイが見た景色ではないパリの景色に出会えて、
客観的に、ちょっと斜めに捉えたあの映画を見直そうかなと思ったり…。
まあ、映画に本に音楽に、生きること死ぬことを学んで55年。
なかなか、面白い人生だなと、ようやく思えるようになったり。
70歳目前から第二の黄金時代へとは言わないけれど、
70歳までの最期のステージを楽しもうかな。
令和五年 夜明け前の蝉に起こされた朝に
栗岩稔
追伸、7月の最後の土曜日に生きるとか死ぬとか考えてみる、
「栗岩稔と人間学」後半の第一回目を開催します。
※詳細は本文末で → https://www.kuriiwastyle.com/blog/2023/07/16/121725
映画に本に音楽に学んだ栗岩稔的死生観もあわせて語り合えたら幸いです。
追伸その弐、私のトニー・ベネットの一番は → https://youtu.be/VLjXbkSm8B4