2023/06/27 10:00

 

SMOKE & TALK:男が煙を纏う理由。


という企画でお話しする機会をいただいた。

このブログを更新する頃には、

その時間は終わっているはずだが、

今、ワクワクしつつも心地いい緊張感に襲われている。

内容については今秋までお待ちいただくが、

今の貴重な心情は書き留めておきたい。



私の喫煙歴は四十年(計算があわないことはご容赦を…。)

ワルいふりをして格好ばかりで吸い出したタバコ。

格好なんかつくわけがないのに、

おいしく感じるわけがないのに、

格好だけで吸っていたタバコ。


今、思い起こしても赤面するあの頃、

松田優作、ジェームス・ディーン、スティーヴ・マックィーン、

憧れの男たちのタバコの吸いかたを真似してみた。

似ても似つかないのに練習した。

LEVI'S 501のポケットにZIPPOのライターも収まった。


ある日、バイト先の珈琲専門店のマスターに言われた。

「ひと様にはどんな炎もみせないほうが良いよ」と。

マッチの擦りかた、ライターの点けかた、

タバコの吸いかたを覚えた。

手の内ですべての動作を隠すことが出来るように練習した。

自分に向けてマッチを擦る、

リンの匂いが収まるまで待つ、

手で覆いながら隠して持っているタバコに火を点ける。


外には向けずに、

手の内側に燃え先を向けて、見えないように。

それが自身の吸いかたのカタチになるように練習した。

流れるように美しく、

周りに煙がいかないように静かに煙を纏う。

「自分の内なる炎は見せないように」

良い言葉を学んだ。

タバコを吸う行為自体が、束の間の良い時間になった。

忙しなく吸うこともなく、ゆっくりすることが出来て旨く感じた。


酒の味わいも覚え始めたある日、

酒場で隣り合わせた男性の灰皿に目を奪われた。

ほぼ同じ長さの吸い殻と隅にまとめられた白い灰。

散らかることなく、飛び散ることなく、きれいに収まっていた。

会計を済ませた男性が、止まり木を離れたあとの景色が美しかった。

立つ鳥跡を濁さず、だった。

その日からすぐ真似をして、練習して、習得した。


葉巻もパイプも覚えた、というより教えてもらえた。

道具の意味とこだわりとその美学を学んだ。

化学的ではない深い味わい、そのための吸いかたと所作とその手。

学んでいくうちに、その奥深さがたまらなく好きになった。


普段の紙巻きタバコの吸いかたも変わり、

さらに旨く感じた。

忙しなく、場繋ぎの、ごまかしのタバコを一切やめて

一服するようになった。


酒場で目にする格好良い男たちに学んできた。

醸し出す雰囲気、佇まいと所作、

その美しい景色を学んだ。

雑な仕草をやめ、自分の肩幅感覚を美しい景色に保つことを意識した。

そうするうちに、その時間をさらに楽しむことが出来た。


映画にも学んだ。

「アンタッチャブル」のアル・カポネの子分と葉巻の意味合い、

「コーヒー&シガレッツ」のそれぞれのシーンでの心理状態、

「ゴッドファーザー」のマイケルに言葉なくとも伝える言葉、

「スモーク」の街のタバコ屋に集う人々の心の交流。

今では少なくなった映画の中のタバコの景色にたくさん学んだ。


中年に差し掛かったある日の酒場で、

隣に座る初老の紳士に声をかけられた。

「君は良い吸いかたをなさる。

旨そうだ。止めて久しいが、私に一服いただけるかな。」

「え、あ、ありがとうございます。どうぞこちらを。」

至福の一服の時間と美しい紫煙が流れた。


トム・ウエイツの音楽の奥深さが五臓六腑に染み渡り、

セロニアス・モンクのSMOKE GETS IN YOUR EYES.に心が震えた。

パリのレストランでデザートシガーを上手に選べて美味しくいただき、

SMOKING JACKET の意義を体感した。


譲り受けた形見のジャケットに見つけた、

葉巻用の内ポケットに涙した。


格好つけて、見栄をはって、背伸びすることなく、

ごくごく自然に煙を纏うことが出来るようになった、と思う。

煙りにむせることなく、煙に巻くことなく。


酒と服と音楽と紫煙で大人の遊び場を作りたいと思った。

その時間を提供して、共有して、伝えていきたいと思った。

そういう仕事を生業にしようと決めた。


あと数日後、いただいた企画で何を話そうか。

自身の炎は胸に秘めて、穏やかにたおやかに、

煙を纏う時間を楽しみながら、語り合いたいと思う。


肩身の狭くなった愛煙者とともに気配りしながら、

美しい煙の景色になりますように。


令和五年 湿った朝に今日も元気だタバコが旨い

栗岩稔