2023/05/02 10:00

八十八夜、

立春から数えて八十八日も過ぎて、

西暦でも一年が三分の一が過ぎて

相変わらず時の流れの早さを痛感する。

 

茶摘み唄が思い出されるほどに若葉が輝いた先日、

旬のモノと酒をいただいた。

銀座でたくさんの人に愛される老舗の路地裏の蕎麦屋。

主食としていた、そばの国生まれには東京の蕎麦に馴染めず、

「そば」と「蕎麦」の違いをなんとなく感じたあの頃。

今では、その蕎麦を楽しむゆとりができた。

 

まずは、ビールと板わさ、だし巻き玉子。

価格高騰の今でも、たっぷりの卵で作られた、

湯気が立ち上るだし巻き玉子。

 

渋谷にいた若い頃、

ひとり居場所を探してたどり着いた路地裏の居酒屋。

目の前で焼き立てを出してくれる、大きなだし巻き玉子。

たまらなく美味しく、月に一度の一人きりのお楽しみ。

あの頃に出会えた、やさしく美味しい時間を思い出す。

 

今では、自分なりの食べ方だったり、味の好みだったり、

少し面倒臭いおじさんになったかな、などとも思いながら

次には、ほたるいかの刺身とわかさぎの天ぷらを。

みょうが天の誘惑にかられながら、揚げ物二品は我慢の現実。

 

旬の走りから終わりまでを楽しみ、味わうことを覚え、

東京の蕎麦屋にも少しだけ馴染んだ気がする今。

〆には大好物の辛味大根おろしのもりそばを大盛!で。

お茶は出すことなく蕎麦湯を出すその店で、

焼酎の蕎麦湯割りをいただきながら終える美味しい時間。

 

新茶はないけれど、新蕎麦の頃にまた

いや、すぐ来るかな、いや、来るでしょ、きっと。

だって、そばの国の人ですからね、やっぱり。

 

などと考えながら、銀座を歩く土曜の午後の良い時間。

 

強すぎる南の風に起こされた朝、

五時五十五分を示すデジタル時計。

五十五歳を迎える年の五月に五のぞろ目。

幸先良いかも、とほくそ笑む。

はじまる今日という一日を楽しみに。

 

あー、やっぱり蕎麦が食べたい!

 

令和五年 風薫る五月二日に

栗岩稔

追伸、八十八夜の頃に摘まれたお茶は

末広がりの八が重なる縁起物とのこと。

初物七十五日という言葉もありますからね。

大切ですよ、旬は。