2023/04/14 13:54

 

栗岩稔と人間学  第三回

〜働かなきゃだめですか?〜

花冷えのする土曜の午後に今回の参加者は。

4月から職場が変わることもあり、働くことを考え直すきっかけにと小学校教諭の U さん。
●ロースクールを卒業後司法試験突破を目刺しながらも、様々な仕事を請け負う W さん。
ITベンチャー企業の創業から勤務し、働くことが大好きだけれど、最近思うところありの F さん。
●銀座に店を構えるオーナーバーテンダーでありながら、この先の人生て働くことに思慮する Y さん。
●外資系精密機器の企業に職人として勤めながら、慣れを感じ始めた10年目に働くことを思う E さん。
そして、栗岩稔(以下 K)

はじめに
K: みなさま本日はありがとうございます。まずはじめに私から投げ掛けと言いますか。それぞれ色々なカタチで働いているみなさまに、働くっていう概念について少しだけ。
働くって、どういうこと?と思い、調べてみたんですよ。
漢字の成り立ちでは、鎌倉時代には、「動く」が「はたらく」で「はためく」からの音の変化があり。
人や物が止まった状態から動くことを「はたらく」というようになったそうなんですね。
それが、明治に入り「動」に人偏がついて国字として政府に制定された「働」。
そこから人に、「お金を稼ぐ」いう概念が植え付けられたんじゃないかなって。
資本主義社会の中では、お金を稼ぐ術としての労働が働くことなんだろうけれど、
そもそも生産性を持って生きることが働くことなんじゃないかなって、最近私は思います。みなさまと一緒にそれぞれの立場でそこを突き詰めていけたら面白い話しになるんじゃないかなって思っています。

今、働いている中でそれぞれに思うこと


K: Uさんは、子供たちに教えることで、未来を作っていますよね。
U:
本当はそうなんですけど。ただ、未来を見ることは出来ないから何とも言えないけれど、何かしらの影響は与えているんだと思いますね。
K:
その子たちの人生に働きかけていますよね。
U:
受け取り方は個人個人で違いますけどね。
K:
「働く」って、すごく大きなテーマだと思うんですよ。人間だから出来る技だと思っていて、動物は生きるための狩りをして、群れを作ったりしていますけど。
Y:
人間でもいますよね、原住民の人たちとか。
K:
でも人間は働いていますよね、お金を稼ぐという概念を除いて、生活するために。そう考えると、
生きることが働くことだと思ったりして。働くことが大好きな Fさんは、どうですか?
F:
好きですね。でも最近は誰のため、何のために働くのかと考えていて。相手ありきの仕事ですので、その中で自分がどうなりたいか。少しでもましな人間になりたいなと思っているところもありますね。
お金のためではなくて、仕事をすることで自分が良くなる経験になると思っていて。失敗もするし、色々ありますけど、ちょっとでも良い人間になりたいなっていうモチベーションで働いているところもありますね。
W:
自己実現の手段としてということですか?
F:
そうですね。性格的にというか人格として、ましな人間になれるかなって。色々な場面で向き合う時でも良い人間でありたいなって。故稲盛和夫さん(京セラ、第二電電創業者)の言葉で「仕事をすることで良い人間になれるんだよ」という言葉があって。それがシンプルだけど結構響いたんですよ。
U:
仕事の内容とかとは違う話しになってきますか? 今やっている仕事と良い人になるということは。
F:
そうですね。あまりリンクしていないですね。明確に、仕事をすることと良い人間になるということが二つに分かれていますね。仕事を通じて相手にどうなって欲しいかと、自分がどうありたいかというモチベーションですね。俗に言うベンチャー企業のハードワークの中でも向き合って頑張っていけるか、というところですね。

働く」とは他者との向き合いから始まる?


Y:
今、向き合うという言葉を何回か使いましたね。そこだと思うんですよ。意識が高い人たちが仕事をする時って、人と人が交わって摩擦が生じて、それで人間形成が出来ると思うんですよ。それって他者と向き合うことなんですよ。僕らの仕事もお客さんとどう向き合うか。でも、向き合っていないバーの人たちもいっぱいいて、そういう人たちって、いくら仕事しても変わらないんですよね。語弊があるかもしれないけど。僕らって細胞レベルでも変化していて、日々変わっていますよね。一日一日、同じことってなくて、無常の世界に生きていて変化しているんですよ。向き合うことなく隔たりを持ってしまうと、自分の立場に囚われて周りを見て生きていないように思えるし、結果、成長の種を摘むことになるんじゃないかと。他者を理解するという前提に立つことで、共通言語が見出されていく。そこが仕事の大事なポイントかなって。
K:
確かにそうかもしれないね。Yさんとは全く違う過程でバーテンダーになっているけど、互いに他者への向き合いという点で共通していますね。人や酒、自分自身に。だからこうして出会えているんだろなあ。そして、今、楽しいですね、働いて生きていることが。そして多分死ぬまで働いているんだろうと思いますね。
Y:
僕は今銀座に店を構えていますけど、無くなっても良いかな、とも思っていますね。近々旅に出る予定にしていて、店のカタチを考え直しているんですよ。違う自分、僕らバーテンダーってこれで良いの?という答えを探しにいこうとしているんですよ。今までのやり方でこのまま死ぬの?もっと違ったやり方があるんじゃないの?とか。こう有るべきと思っていた自分から解放しようと思っていて、その時に働くって何だろうとも考えて。まさに、今日のテーマなんですよ。

「働くこと」を見つめ直す時期はあっていい


F:
そのターニングポイントみたいなものってあったんですか?きっかけというか。
 Y:
一番大きな出来事は日本一になったときですかね。何者かになりたかった自分になったはずなのに、実は何者にもなっていないって気づいた時があったんですよ。その時に見られ方や外側は変わっても自分自身は何も変わってないなって。でも変わっていないことって、うれしくもあり、悲しいことでもあり。その感情に一気に襲われたんですよ。それが考え直すきっかけでしたね。あとは、Kさんに出会ったことも大きいですね。全く違う道を辿ってきた人の生き方とかスタイルに、今まで出会うことがなかったですからね。
K:
良くも悪くも、ね。
U:
もしかしたらバーテンダーという仕事も捨て去るかもしれないってこと?
Y:
それも考えていますね。それでも良いんじゃないかなって。40才を過ぎて、昔であれば人生終盤ですけど、現代では人生100年時代になってきて、これからまた倍の人生を考えるともう一回やれんのか自分?と思った時があって。その時からまた色々なことがおこるんですよ。銀座で働いていると、あっち行ったりこっち行ったり。本質的なところと現実的なところのなかで暗中模索ですよ、今でも。
K:
もう少しだけバーテンダー話しをさせてもらうと。その時まであまり連絡を取り合ってなかったんですよ、Yさんと。それがある日カウンターを預かって欲しいと連絡があって。断る理由もないし、思うところがあったんだろうし、即答はしたけれどね。この世界ではカウンターを預かることって、とても大きな意味合いがあって、重圧もあって。でも、Yさんが求めていることと、自分が求めていることの答えがそこにあるような気もして。これもまた、向き合って、向き合い続けてきた結果かなって。この先のはじまりもあるし。

働く」道を決めるってどういうこと?
K: Eさんは若いうちから今の道を決めて歩み続けてきたけど、10代半ばで決めた時の気持ちとか、どうだっんですか?すごいなって思っていて。
E:
そんな大したことじゃないですよ。ただ、働く、仕事、勤労とか言い方は色々ですけどお金が入ってきて何もしなくても営んでいけるよ、と言われたとしても何かしらしたいという気持ちがあって、その時にこの道だったら一生やっていけるな、って思ったんですよ。信念を持って生きていけるなって、決めたんです。
K:
でも、それを156才で決められたことがすごいことだと思うんだよね。Uさんは子供たちを相手にしているからその辺りのことがすごいと思いませんか?
U:
そうですよね。でも決めちゃって良いの?と思うところもあるかな。大人の意見として、今決めちゃって大丈夫?みたいな。学校でも夢を書けとか言いながら否定する大人がいたりするし。
E:
僕自身挫折というか、サッカーをしたりテニスをしたりしたけど続かなかったんですよ。小さいながらも勝てないなと感じたんです。現実的に無理だなって。子供の頃からインターネットが普及していたので調べてみたり、知らず知らずに可能性を潰していったんだと思いますね。
U:
で、そこで今の仕事で行こうときめたんですね。
E:
そうですね。逃げ道を塞いで、消去法みたいな感じで。
Y:
消去したりって、みなさんはないんですか?
K:
自分はすべて消去しちゃったから路頭に迷ったかな。迷いながら入っちゃった進学校でまた迷ってしまったんですよね。大学に行くことも迷った結果、行かない判断をして働かざるを得なかったし。でもその時に、大学でかかる費用とかを稼げないかなって思ったんですよ。1000万円を4年間で、みたいな。だから自分にとって働いたきっかけはお金ありきだったね。18才で朝から深夜、明け方までバイトして。そこで、出会った人たちの生き様を見て働くってこういうことって意識したかな、あの頃に。でも楽しかったな、あの頃。もしかしたらルーツはあそこかも。
E:
少し話が違っちゃいますけど。さっき言った狭めていった結果で、その道に必要なお金、入学金とか、そういうお金、大金。それを親に反対されて抗えるかどうか不安はありましたね。絶対行ってやろうとは思っていましたけど、こればかりは努力だけでは難しいじゃないですか、現実的に。もちろん自分でバイトをして学ぶ時間を削ってっていう人もいましたけど、僕は学ぶ時間を削って犠牲にしたくなかったんですよ。もし、お金の面で無理だとわかったら仕事ではなく趣味にしていたかもしれないですね。でも魅力がありすぎて、期待もあったので、時期をずらしたりとか色々なことをして、たまたま上手くいったから、今こうしていると思いますよ。
Y:
でも、たまたまじゃないんじゃないですか。強い意志が働いたというか。
E:
そうかもしれないですね。気持ちが切れることはなかったので。やりたかったんですね。

〜後編に続きます〜