2023/03/21 10:00
「春分」を迎える。
暑さ寒さも彼岸まで、
とは良く言ったものだと感じながら、
どこかで、喉元過ぎれば熱さを忘れるような生き様に、
ついため息が漏れだす季節でもある。
そういえば、二十四節季の中で二回だけ国民の祝日、
「春分」と「秋分」だけが何故?
あまり気にかけても来なかったこのことが、
何故だか急に気になり出して調べてみた。
古くから数ある宮中祭祀のひとつとして執り行われてきた
「春季皇霊祭」と「秋季皇霊祭」。
戦前までは、
そのまま祭日として休日としていたものの、
天皇の在り方が変わった戦後の1948年、
日本政府が「自然を称え、生物を慈しむ」ことを目的として制定した。
何だかとても、するりと腑に落ちた。
また、この「春分」の日は、
満潮から干潮の潮位の時間を定める基準日であり、
昼夜の長さがぼぼ等しくなる日。
「はじまり」や「基準」を感じる日でもある。
街を見渡すと、春爛漫の花盛り、
辛夷、木蓮、染井吉野。
人間の営みでは、終わりから始まりの象徴的なこの時季。
華やいでいるような、緩んでいるような、
浮き足立っているような…。
春爛漫が少し苦手で気恥ずかしく感じるこの時季、
柳の芽吹きだけは楽しみに、格別の想いで眺めている。
ほんのわずかで短い期間だけ目に飛び込む新緑。
南の風にたおやかに揺れる薄緑に輝く細い木枝。
たまらなく儚くて美しいと思う。
柳緑花紅の境地には到底至らないものの、
東京が好きになるきっかけのひとつになった柳の木。
故郷ではあまり目にすることのなかった柳の木。
銀座にたどり着いて初めて興味を持った柳の木。
やっぱり気になり出して調べてみた「銀座の柳」。
関東大震災の後に街が整備された明治初期、
街路樹として植えられた、松、楓、桜の木、
元来、水路の町で地下水位が高い銀座では枯死。
代替えとして植えられた、しなやかに強い柳の木。
銀座の名物となりながら、戦災で失い、その後復活。
今では、銀座の柳三世まであるとのこと。
しかも!
銀座の柳は長野県安曇野産であることが判明。
勝手ながら、ここにも縁を感じてしまう柳の木。
やっぱり始まりは明治か、と思う東京の街の歴史、
深掘りしながら、楽しみを見出だしながら好きになった。
そもそも来る予定などなかった東京の街を、
想像することすら出来なかったあの頃に、
大好きだった天才放浪画家を描いたテレビドラマ。
その主題曲の歌詞に
「野に咲く花のように風に吹かれて」からはじまり
「そんな風に僕たちも生きていけたら素晴らしい」
という一節。
今、ここ東京でようやくその素晴らしさを実感している。
ここ東京で34回目の「春分」をあと15回数えるために、
東京の風に吹かれながら、
地に足つけて生きていこうと思う。
柳に風にならないように、
柳の下の泥鰌にならないように。
柳を折るように送り出してくれた故郷を想いながら。
そうそう、
春分の頃は農作業を本格的に始める目安らしいですよ。
やはり、人は動いて、働いていくものなんですね。
何かを生み出すために、大地を感じながら…。
令和五年 あの放浪画家の大好物のおにぎりが恋しい頃に
栗岩稔