2023/02/21 10:00
酒場という場での20年分の傾向と対策。
言語化したり、データ化したりすることはなくとも
自分の頭の中の「勘ピューター」に蓄積している、はず。
それが、デジタル通信以上の高速で神経伝達され、
瞬時に作業する手に伝わり、作り出される酒。
先日、20年ぶりの懐かしい顔に再会した。
聞けば、ふと、あの時の酒を思い出し
検索してみたところ、近所にいることが分かり、
画面に案内されながら
ここまでたどり着いた、とのこと。
だいぶ酒量が減ったものの、
帰宅前の一杯を是非と。
彼の酒が当時の景色とともに甦り、
手に伝わるその分量。
あの頃よりも、少しだけやさしく作る、
今の彼の酒。
満面の笑みとともに三口で飲み干した彼。
「うまいねー、いやー、ホントに」
「ありがとうございます。鈍ってませんか?私の手」
「いやいや、全然。
一杯だけのつもりだったんだけど、次は……」
「あれっ、あ、ありがとうございますっ」
「今はこれを、っていうのをもらおうかな」
20年分の経験から生まれたその酒に、
「うーん、ダメだ……」
「えっ?」
「いや、やっぱりもう一杯だ」
ちょいと一杯のつもりが、
いつの間にやら陽が落ちて、
冷たい夜を迎えた東京の街角で、
うれしく温かな酒場の時。
20年前の酒と今、この瞬間の酒。
20年前の自分と向き合う、今、この瞬間。
社会に出て30年以上の経験。
この世に出て50年以上の経験。
酒も服も何もかも、
生き様すべてが過去からの積み重ね。
データ化なんかできないけれど、
もの凄い量のデータが蓄積されて、
もの凄い速さで情報伝達している、のかな、
そんな風に感じる昨今。
あと15年、
蓄積され続けるはずの「勘ピューター」。
データ化できない経験のアップデート。
どこにでもいるひとりの男として、
言葉で伝え、酒で伝え、どこかで伝える、
ある意味では表現者としてのアップデート。
次に進むための傾向と対策、経験という学び。
まだまだ高みを求め続けていきたい。
20年、30年、50年の経験というデータを基に、
少しずつ、少しずつアップデートする。
練習し直したり、手を切ったり、
グラスを割ったり……。
皹だらけ、傷だらけ、絆創膏だらけ、
ボロボロでしわくちゃな手を眺めながら、
更なる高みと新しい時間と場所のために、
過去に問いかけ、先を見て、また一歩。
令和五年 三寒四温の頃に。
栗岩稔
追伸、三歩進んで二歩下がっても一歩一歩を大切に。
五十歩百歩にならないように……。