2023/02/14 10:00
これもまた、過去に問いかけ振り返る物語、
シャツ語り。
海辺の町での酒番の頃、
閉店後の酒場のカウンター。
いつものラフロイグソーダと共に語らう、
いつもの時間。
どうしても目がいく、
シャツの袖口の少しのほつれ。
普段から誂えの服を身に付け、
確立した姿らしからぬその乱れ。
堪らず、その理由を訊ねた。
「良いシャツはね、このくらいまで着込むとね、
気持ちの良いモノですよ、特に背中とかね。
君もそのうち分かりますよ、そのうちにね」
との答え。
より一層、ラフロイグソーダが沁みわたる午前2時。
あの時以来、
肌に一番近いシャツから誂えることを始めた。
元来、下着だったドレスシャツ。
その起源に則り素肌に着る。
工業系クリーニングは極力避けて自宅で洗濯、
自分でプレスする。
タイをする時のドレスシャツ、
しない時のドレスシャツ、
首元を開ける時の鈕位置、着丈、
袖丈、そのカタチ。
カジュアルシャツは袖の捲りかた、
鈕の開け方などなど。
そんなことを考え続けた「私のシャツ」の姿になった。
襟と台襟の境の擦り切れには、
襟を外して立ち襟に、
袖口の擦り切れには、
5㍉短く縫い込んでの補修をしたり、
タブルカフスは傷むとシングルカフスに作り替えたり。
人前では着られなくなったら部屋着や寝間着に、などなど。
20年近く愛用するシャツを
中心に楽しんでいる「私のシャツ」。
立冬を過ぎて、冷たい風にはタートルネックに衣替え、
(こちらも大好き、自称タートルズ、というほどに…)
寒さが残ろうとも、
立春にはシャツスタイルに衣替え。
これが私の服の歳時記。
東京の空に雪が舞い踊った寒い日。
歴史ある川の歴史ある橋の袂で酒番を務めたその日。
海辺の町の酒場の主を同じく師とする男と語らいながら、
20年以上も脈々と続き、
今でも紡ぎだすその物語に、
温かな気持ちにを覚えた、
とても寒く冷たい夜。
その日は、少しのやせ我慢を覚えながらのシャツスタイル。
15年以上が過ぎたお気に入りの肌触りの良いシャツ。
生地全体が薄くなり、
何となく寒さが凍みるものの、
上質のニットとの重ね着で楽しんだその夜。
閉店間際の作業中、
更に凍みいる背中の寒気。
体調に不安を抱えながら
北風抜ける橋を越えて帰路に着く。
いつもの順番で服を片付け、
ニットを脱いだその時に、
背中に感じる冷たい空気、
脱げば見つかる一筋の裂目。
真ん中に一直線で裂けた生地。
悲しくもあり、愛おしくもあり、
シャツに感謝した午前2時。
背中が裂けてりゃ、そりゃ寒いでしょうよ…。
雪が降ったし、風は強いし、橋を越えたし…。
令和五年 背中に寒さ凍み入る東京の雪の日に
栗岩稔
追伸、とうとう「私のシャツ」を作りました。
2月23日木曜祝日から25日土曜日の3日間限定で、
「私のシャツ」先行受注販売会を開催します。
詳細は改めますが、
「私のシャツ」ですよ「私のシャツ」。