2023/01/31 10:00
久しぶりに Bill Evans を聴いている。
「Waltz for Debby/Bill Evans Trio」1961年
ニューヨーク・マンハッタンの
老舗ヴィレッジヴァンガード。
今もそこにあるジャズクラブで録音されたこのアルバム。
初めて聴いた時の衝撃が忘れられずに、
初めて訪れたニューヨークの夜に
勇気を出して扉を開けた。
誰が出演してどんな演奏だったのか覚えていないほどに、
舞い上がり興奮して
1961年を想像していた記憶しかなく、
そこにいることの喜びと、
少しほろ苦いニューヨークの思い出。
「JAZZおじさん」とまで言われるほどに歳を重ねたある日、
幸運にも、アルバムの基となる生の音が録音された、
8トラックテープの音源を聴く機会に恵まれた。
4回を数えるステージを時間を追って聴くという、
あり得ない体験に、またしても舞い上がり興奮した。
この時期の Bill Evans は
昼の部からの出演ということもあり、
前半は聴衆の意識が向くことなく食事をする雑音が混じる。
後半に向かうほどに雑音が消えて
聴衆の意識が吸い込まれていく。
その景色が手に取るように感じられるこのアルバム、
ジャズに興味のある方は必聴かと。
彼は亡くなるまでの間に約40枚のアルバムを発表している。
探求心に満ち溢れ、自分の音を追い求めたその表現に、
次の音を予感させ、
期待させる音の景色が広がる作品群。
時代順に聴いたり、
様々なプレイヤーとの共演もまた面白い。
もちろん、ソロプレイの演奏も素晴らしく、
1968年「alone」、
1975年「alone-again-」の聴き比べも…。
そして晩年、1977年の演奏で
彼の死後一年後に発表された
「You Must Believe in Spring/
Bill Evans featuring Eddie Gomez and Eliot Zigmund」
発表時期や背景を知った「偏聴」なのかも知れないが、
追い求め続ける音というよりも完成形の表現に思える。
その体調から、これ以上無いと自覚した上での演奏なのか、
高い完成度の中に「終わり」の景色が広がるようにすら感じる。
Bill Evans 1929年生まれ1981年死去(享年52才)
計り知れない何かを求め、迷い苦しみながら歳を重ね、
結果的には薬物中毒が元で身体を壊した52年という生涯。
彼の年齢を越えた今、
「歳を重ねるって面白いですか?」という問いかけに、
Bill Evans に置き換えて重ね合わせて聴いている自分に、
何年経っても、何をしても
「JAZZおじさん」を感じながら、
この時期はやっぱり、
「Moon Beams/The Bill Evans Trio」でしょ、
と土曜の深夜。
そうだ明日は、Thelonious Monk を聴こう!
令和五年 季節移ろい歳を重ねる立春を前に
栗岩稔