2023/01/03 10:00

2023年、令和五年、みんなの一年がはじまった。

あなたの一年はどうですか?

 

一年後は何をしていますか?

五年後はどうしていますか?

十年後には生きていますか?

明日はどうですか?

 

もう二十年以上前のこと。

ニューヨーク・マンハッタン150丁目、

ハーレムの老舗ジャズクラブ。

肌の色が黒くないのは自分だけという

深夜零時のカウンター。

隣で音楽に耳を傾け、グラスを傾ける若者が、

「お前は日本人か?」

「そうだ」

「ひとつ質問して良いか?」

「もちろん」

「今日の1ドルと明日の10ドル、どっちが欲しい?」

10ドル」

「だろ!」

「お前たちのような奴らは明日も生きていると、

普通に思えるから10ドルなんだよな。

俺たちは1ドルだよ、1ドル。

明日も生きているかどうかわからないからな、

この街では」

「そうか……

半分以上残ったジャック・コークを飲み干して席を立つ。

「ありがとう」

God bless you

 

冷たい風吹く通りを歩く。

ピーナッツを詰めた紙コップを両手に持ち、

首から看板を下げ男が通りに立つ。

おぼつかない文字で書かれた看板には、

「一杯25セント、ありがとう」

ハーレムのど真ん中にいるという、

いつもの警戒感とは違い、

緊張感と高揚感に背中を押されながら、

彼らは見たことも、行ったこともない別世界、

通りを隔てたダウンタウンを目指して歩いた。

 

もうすでに、はじまっていますよ。

115年、2365日、48時間以上。

そもそも、ちゃんと生きていますか?

 

令和五年 115のはじまりに

栗岩稔