2022/09/06 10:00

若い頃、かじりつくように聴いていたラジオ番組があった。

確か番組タイトルは「バーラジオ」。

重い木の扉を開ける音からはじまり、

渋い男の声と心地好い音楽。 

視聴者からのお便りに静かに答えるパーソナリティー。 

毎週欠かさず聴いていた。 

なれるはずもない自分をそこに重ねて憧れていた。 

情報が入り乱れる都会で、

好きな本、好きな映画、好きな音楽に触れてきた。 

もちろん好きな酒場を真ん中にして、触れてきた。 

大人たちが口にする本、映画、音楽を少しでも体感しようと、 

手に入れ、目に入れ、耳に入れてきた。 

今振り返ってみても、酒場、音楽、

本、映画な時間だったと思う。 

 

ある日を境に酒場でカウンターの内側に入ることになった。 

立場が変わったそこは、情報の宝箱だった。 

まさに自分にとっての「バーラジオ」だった。 

漠然とラジオのような自身の酒場を

作りたいと考えるようになった。 

 

ドラマのような、映画のような、

本のような酒場の誰かの物語。 

男と女、男同士、女同士、先輩後輩、ひとり酒。 

とにかくたくさんの物語がある酒場の時間、そこに重なる音楽。 

ラジオのような小さな小さな酒場を路地裏に作った。 

大きな目標をひとつ達成して、終えた。 

 

若い頃に憧れだったラジオ番組も

おかげさまで、 鎌倉市、中央区と

コミュニティーFM局で番組を持たせてもらい、 

今ではインターネットラジオ局で持たせてもらっている。

https://wahradio.org/minoru-kuriiwa/

 

願えば叶うなどと気安く言えないものの、

願い続け、発し続ければ、 

自然とそこに近づいていくものだと実感し

感謝している。 

 

そして、この秋には次の新しいカタチで番組を持たせてもらう。 

あの頃に憧れた渋さはないかもしれないが、

私なりのスタイルで、 

私の「バーラジオ」をやってみたいと思いを巡らせている。 

 

そんな矢先にある酒場で、 

「どんな本を読んだら良いですか?」と美しい女性。 

「好きなことは何?」 

「クラシックバレエを3才から続けているから、それかな」 

「だったらバレエに関するところから入ったら?」

「例えば、どんな感じですか?」 

「映画も関係しているとより入りやすいかも」 

「あ、映画も好きですよ」 

「ベンジャミン・バトンとかどうかな。 

スコットジェラルドの短編で

映画はブラッド・ピット主演。 

不慮の事故で道を断たれた一流バレエダンサーとの愛の話」 

「あ、それだけで読みたくなってきました」 

そんなラジオのような酒場のひと幕。

 

 酒場でラジオ、酒場がラジオ、

ラジオで酒場、ラジオが酒場。 

 

 令和四年 酒場でラジオを考える長い夜