2022/08/23 10:00
野球の練習で疲れきった身体を引きずって
家路を急ぐ。
家々から洩れてくるカレーの香りに
空腹感が倍増する。
うちもカレー、に期待しながら
早くなる足取り。
洩れ出てくるカレーに似た香りに
泥靴もそのままに玄関を駆け上がる。
正座して待った夕食のとん汁にがっかりした夕暮れ。
明日に期待する夏の終わりのヒグラシの声。
ご飯とカレーが逆さまの
母親考案(?)のカレー弁当、
月に数回の出前のカツカレー、
父親の車で感じたカレー工場の匂い、
もちろん母親の作るカレーは大盛り、
とても懐かしく楽しいカレーの記憶。
高校野球の夢を断念して進学した
迷い多き高校時代。
戸惑いながら迎える十代の終わりに、
タイトルに惹き付けられ
「ライスカレー」というドラマを観た。
珍しく飽きることなく最終回まで欠かさず観きった。
時任三郎、陣内孝則、布施博、
中井貴一に藤谷美和子、
懐かしい面々が出演していた
倉本聰脚本のドラマ。
高校野球の仲間三人が卒業後に
ライスカレー屋を始めるという大先輩に誘われる。
カナダという異国の地で
様々な人に出会い、様々なことが起こる。
夢にも破れ、右も左もわからす、
言葉も通じない知らない街で、
ログビルダーの若者に出会い、
共にログハウスを建てることになる。
迷いながらも懸命に生き抜く若者たちを描いた物語。
すぐに感化されて、海外で生きて行きたいと思った。
ログビルダーになりたいとも思った。
何か出来るはずと思い込んでいたその頃、
アルバイト先の喫茶店で
運良く本物のログビルダーに出会った。
山中に泊まり込みでログハウスを作り、
キャンプでカレーを作った。
やることなす事すべてが中途半端に終わり、
流されるように上京した。
上京する前日の昼食はカレースバだった。
https://www.kuriiwastyle.com/blog/2022/05/24/100000
独り暮らしをして
初めて作ったカレーが美味しく感じられた。
都会の生活に慣れたつもりの頃には
酔った勢いで深夜のカレースタンドにいた。
居酒屋の大将がこっそりカレーを出してくれた。
大好きな喫茶店のマスターの特製カレーランチ。
たくさんの記憶に刷り込まれているカレーの香り。
国民食とも言われるカレーが
日本に伝わったのは150年以上前のこと。
留学していた学者の言葉からはじまり、
「西洋料理通」で紹介された明治初期。
肉食が解禁されて民衆に広まって
洋食屋の定番メニューになり、
陸軍幼年学校で昼食に出されて
学校給食の人気メニューになり、
国産カレー粉が発売されて
家庭でも簡単に作ることが出来るメニューになり、
昭和初期に新宿、銀座で高級カレーが発売されて
多様化していく。
今ではたくさんの種類が
街中に溢れ選択肢が広がっている。
ただやはり、前述のドラマで言っていた
ライスカレーの定義、
「ご飯の上にカレーが広がり、
具は大きめのじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ。
添えてあるのは、らっきょうと福神漬け、
カレーの上にはグリーンピース3粒」
こんなライスカレーを食べたくなる夏の終わりの夕暮れ。
思い悩んでいた十代の頃を懐かしく思い出しながら。
もちろん、スプーンの入ったコップとは別に
ビールのコップも。
令和四年 ライスカレー、カレーライス、カレー、カレー、みんなのカレー
栗岩稔