2022/06/21 10:00

雨が好きだと言い続けて久しい

子供の頃は雨が好きになる理由なんて

ひとつもなかった 

外遊びが出来なくなるから

かえって嫌いだったかもしれない

 

ただ、大の苦手とする球技以外の

体育の授業の時は雨乞いをした

足は遅いし、身体は硬いし、

鉄棒などは見るのも嫌だった 

特に、肌寒い時期から始まる水泳は

苦手を通り越して恐怖だった 

野球部だった中学時代は雨だろうが嵐だろうがお構いなし

唯一の中止は金属バット使用のための雷だけ、

そんな時代だった 

 

高校時代はただただ漠然とした憂鬱な雨だった 

多少見てくれを気にするようになった年頃、

通学時の気が重かった 

ただひとつだけ、弓道部で修練に励んだ道場で

感じた雨は美しかった 

会話禁止の道場に響く弓の音、

小石を敷き詰めた地面に落ちる雨の音 

雨の景色が美しいと初めて感じたあの時から

意識が少しだけ変わった 

そうは言っても、

雨が好きというよりも言い訳にして逃げ道にしていた 

子供の頃の雨は好きでも嫌いでもなく、

ただ面倒くさい憂鬱な雨だった 

 

社会に出て、街に出て、本を知り、

音楽を知り、酒を知り、雨を知った 

アスファルトに降りだす雨の匂い、

高い高いビルから見下ろす雨 

整備された公園で高い木から見上げる雨、

泥はねしない街歩き 

濡れることなく移動可能な雨の街、

雨もまた良いと思えた

 

独りカウンター居酒屋で「雨の慕情」が染み渡り、

「舟唄」でスルメを噛みしめ バーカウンターで

エラ・フィッツジェラルドの「Rain」で心が震え 

突然の雨に「雨だからもう一杯」を

楽しめるようになった 

 

海辺の町では大雨を海上で感じ、

陸上ではビーサンで足から感じた 

古の都では「雨の音も風景」を

寺の縁側で感じることが出来た 

マンハッタンでウディ・アレンの

映画のワンシーンを体感し 

マンチェスターで「陽の名残り」の

アンソニー・ホプキンスを思い出し 

ジャッキー・チェンに会えそうな

香港の雨の匂いを感じ、パリの雨を楽しんだ 

 

ローマで何気なく訪れた美術館で

雨がテーマのインスタレーションに出会った 

小さなスペースに立つと

雲が流れて雨雲近づき雨音が響き始める 

そのすべてをまとめるピアノの旋律、

作者は坂本龍一さん 

切なくて美しく広がる時空に感動して

雨が好きだと思えた 

ちなみに、坂本龍一さんのお嬢さんの名は

「美雨」さんだったかと 

 

路地裏に小さな酒場を作る時、

それまでに感じてきた「雨」を注ぎ込んだ 

雨音が美しく聞こえる軒を作り、

雨が見えて雨を愛おしく美しく感じる

酒場の景色が出来た、と思う 

 

やっぱり雨が好きだと言い切れる 

月曜日の雨の日にはカーペンターズの

Rainy Days and Mondays」を聴きたくなる 

あの歌詞と曲調が一番だと改めて思うようになった昨今

憂鬱だったり、塞ぎこんだり、落ち込んだり、

それでも雨が好きだ 

 

令和四年 「雨の日はソファで散歩」を

読むことに決めた火曜日の雨に

栗岩稔 

追伸、大好きなソール・ライターの写真とともに