2022/05/10 10:00
立夏を過ぎるとお決まりのように目にし耳にしていた「五月病」
最近はあまり見聞きしなくなったような気がする
厚生労働相のホームページによると「五月病」とは
新しい環境への適応がうまく行かず
心身に不調が表れる状況で
医学的には「適応障害」「抑うつ状態」などと
関係があるといわれている
酒場を終えて環境がだいぶ変わり
新しい生活のリズムになった今
適応に障害があるなどと思っていないし、
かえって楽しんでいる
ただ心身のバランスを整えるために、
朝も昼も夜もよく歩く
時の流れや季節の移ろいを肌で感じ、
景色や音や空気を楽しむ
少しだけ好きになった東京という街を歩き、
思考を巡らせている
とても大切にしている時間だし、
とても嬉しい時間になっている
ただ、午前8時30分だけは足が止まり心身が疼く
学校の近くを歩いている時に
突然耳に入る始業の鐘、チャイム
あれだけは昔から苦手で耳にするだけで気持ちが乱れた
今日も始まる、
そこにいなければいけない一日が始まり
そこにいなければいけない自分がいる
かといって、どこかに行ける訳もなく、行ける場所もなく
どこかに行く勇気もなく、
真面目にしているふりをしていた
当然、周囲の人々や教師とも対立した
校則や規律や協調を重んじる教師とは特に
対立したまま高校に進学した
十五の頃に同級生から、
これを聴いてみたらと音楽テープを渡された
ラジカセから尾崎豊の言葉が流れ出てきた
「15の夜」「卒業」すべてを代弁している言葉に衝撃を受けた
決して会うことのないアニキのような存在に感じた
バイクの免許も取った
そんな十代の頃の午前8時30分のチャイムは苦手だった
反発しているようで流されながら上京して
東京に染まった気がしていた頃
アニキが何かに抗え切れなかったように突然いなくなった
先輩から「なんか似ているよね、オザキと」と言われた
あれから30年も過ぎ去った先日
伝説のコンサートなる番組紹介の中で、
色褪せることのないメッセージで
今も若者の心に訴えかける楽曲の数々をもう一度などと紹介していた
年月が過ぎて時代が変わって環境が変わっても
やはり、心身が受ける状況は変わらず違う形で表れていて
100年前から変わることのない
社会的性別人種差別、疫病蔓延、
経済危機、環境危機、人道危機
何が持続可能な開発なのか解らない世界的な危機の中
そんな世の中に生き続けなければならない若者はもちろん
人々はもっともっと大変な事態に見舞われていくのだろうか
「五月病」などと分かりやすい言葉では
表すことが出来ないほどの多様な形で
そんなことを思いながら、
今でも疼く午前8時30分のチャイム
毎日が「五月病」のようだった十代の頃を思い出す
令和四年 万物が成長していくといわれる小満を前に
栗岩稔